私はある日、旅に出掛ける事にしました。自分を探す旅...って感じでしょうか。私もたまにはそういう深い事をしてみたりするんですよ。そもそもそれを思いついたのは、自分の宿命って言うか運命っていうか、それを深く知りたいと思ったからでした。「運命は自分で切り開くもんだ」っていつも偉そうに言ってはいるんですけど、ふとした時にどうしても運命としか思えないような事を目の当たりにすると、生まれもった宿命ってのを感じざるを得なくなったりしまして。
生まれもって背負っているものは何なのか...それを見つける為に旅支度を始めました。
で、出掛けるにあたり、知り合いの妖精のお姉さんに家の8人の子守を頼んで、ちょっと一人で出掛けてくると子供達に伝えたらば...
「え〜、なんで〜!」
「付いて行く〜!」
「一緒に行きたい〜!」
「キュ〜ピ〜ちゃん!!」
と大騒ぎです。まぁ、予想していた通りなので、私は説得に取り掛かりました。
一緒に行きたがる子供達を可愛いなぁ...と思いながら宥めていた時、ふとおとなしいおねえちゃんに気付きました。
で、聞こえていなかったのかと思い、おねえちゃんに、
「ちょっと、一人でお出掛けしてくるから、留守番しててね。」
と言うと、
「良いよ。」
なんともあっさりとした返答が返ってきました。
まぁ、仮にも「おねえちゃん」ですから、他の子より物分りが良いのだろうと思い、また他の子達の説得に戻りました。
それからどの位経ったでしょうか。相変わらず治まらない騒ぎの中、ふと見ると、おねえちゃんが今度は少し離れた所を行ったり来たり。なぜかコソコソと歩いています。で、私が見ているのに気付くと、少し背中を丸め、首をすくめて一言、
「うっちっち。」
何か企んでいる様な顔つきから、どうも、本人は、「うっしっし」と言っているつもりの様です。
大体、何かを企んでいるからって、実際に、「うっしっし」と口にする奴はいないと思うのですが...それも明らかにこっちに聞こえる様に...
(まぁ、良いか...)
そう思い、私はまた他の子供達の相手に戻りました。
そして、その晩。
次の日は朝早くから出発する事に決めていた私は、準備を終わらせると、子供達を寝かせつけながら、出発の挨拶をしていました。
一緒に行きたいと駄々を捏ねたり、寂しいと言ってくれる子供達を、直ぐに帰るからとあやしながら寝かせる中、おねえちゃんだけは、なぜか素直に、
「おやすみ!」
と言って布団に潜り込みました。
その様子に多少不信感が無かったと言えば嘘になりますが、まぁ、どうこう言っても「おねえちゃん」ですから、聞き分けよくしているだけだろうと、相変わらず同じ理由で自分を納得させて部屋を出ようとした時でした。
「うっちっち。」
私の後ろから聞こえる声。明らかにおねえちゃんの声です。
気になり、振り返って見ましたが、おねえちゃんはおとなしく布団をかぶったまま。追求しようかとも思いましたが、他の子を起こすと困るので、おとなしく部屋を出ることにしました。まぁ、どうせ大したことじゃないでしょうし...
その後、荷物の最終点検をした私は、ベッドに入り、ぐっすりと眠りにつきました。
そして、次の日。
夜明け前に目を覚ました私は、子供達を起こさないように極力静かに身支度を済ませると、前の晩玄関に置いておいたリュックを背負い、スーツケースを持って、駅へ向かいました。
駅までは30分ほどの道のり。私は旅の目的を考えながら歩いていました。
「人は皆、宿命の星を背負って生きている」とかなんとか、どっかのマンガであったような気がします。
きっとみんな、色んな物を背負って生きてるんだろうな...私は一体、何を背負って生まれてきたのだろう?そして、何を背負って生きていくのだろう?
そんな重苦しいことを考えながら歩いていたからでしょうか。それとも、静かにすることばかりを気にしていて、朝食を食べずに家を出てしまったからでしょうか。ふと気付くと、やけにリュックが重く感じ、私は立ち止まりました。
(あんなにお菓子を詰めなきゃ良かった。)
後悔した私は、ふと朝食をまだ食べていないことに気付き、リュックを背中から下ろしました。リュックの中のお菓子を食べれば軽くなる...それだけの事です。
早朝にも関わらず、素早く解決法を思い付いた自分に感心しながらリュックのチャックを開けた私は、次の瞬間、もう少しでリュックを落とすところでした。
だって、リュックの中には、おねえちゃんがいるんですもの。
「!!!!!」
一瞬、目を疑いましたが、そこにいるのは、間違いなくおねえちゃん。丸まって、チョコを一つ抱いたまま眠っています。
(他の荷物は?)
という疑問と同時に、前日のおねえちゃんの様子が私の頭を過ぎりました。
(これか、企んでいたのは...)
おねえちゃんが「うっちっち」と言う姿を思い出しながら、私は可笑しくてたまりませんでした。
私が背負っているもの...それが生まれもってなのか、最近貰ったものなのかは、浅い私にはさっぱり分かりませんが、そんなことはもうどうでも良いんです。ただ、この不思議な妖精達との生活を大切にしたい...それだけは確かだと確信を持った私は、おねえちゃんを揺り起こしました。そして、寝ぼけ眼で私を見るおねえちゃんに一言。
「もう、お家に帰ろうか?」
そして、嬉しそうに頷くおねえちゃんの頭を撫でると、またおねえちゃん入りのリュックを背負って、足取り軽く家に向かいました。見知らぬ宿命の星に感謝をしながら。
余談ですが、家に着く寸前に、おねえちゃんに訊かれたんです。
「探し物、見つかった?」
って。
で、その声に、私が自信を持って、
「うん。おねえちゃんとチョコ。」
と答えると、おねえちゃんが困ったように、
「チョコ...食べちゃった。」
そう言ってから、チョコまみれの手を私に差し出しました。そして、
「舐める?」
と一言。
どうもチョコは背負っていないようです...
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