（何か甘い物でも食べたら、気分が良くなるかな？）

などと危険な事を考えながら空き缶を集めて大きな声で言いました。

「外にゴミ捨てに行くよ〜！」

すると、うちの妖精たちがぞろぞろと駆けてきました。

「いく〜！」

そう言いながら、もう何人かは私に飛び付いています。もともと私の頭の上で遊んでいた「たまちゃん」は、嬉しそうに私の髪にぶら下がって、「たまちゃんお出掛け」と何度も繰り返しながら、ぶらぶらと揺れています。他の6人もやけに盛り上がって、お出掛け準備をし始めました。おとなしいのはキューピーちゃんくらいで、どうもお昼寝中らしく、腹巻から出て来る気配はいっこうにありません。

（．．．ゴミ捨て程度で盛り上がれるってのもすごいな．．．）

関心しているような呆れているような中途半端な気持ちで、私は相変わらずどんよりと8人を連れて家を出ると、リサイクル場に缶を落として、また家に向かいました。後ろから聞こえる「ガランガラン」という空き缶が落ちる音を聞きながら．．．
そして、家に入ると、朝から続いた不運を振り返り、また暗い気分で座り込みました。
すると、おねえちゃんが私の顔を覗き込んで、言いました。

「元気ないね。」

私は慌てて作り笑いをして言いました。

「そんなことないよ。」

しかし、妖精に嘘は通じません。

「うん、元気ないね。」

確信したように頷いて言いました。

（．．．慰めてくれるのかな？）

そう思っていると、いきなりおねえちゃんが私の肩を掴んで大きく揺すりながら始めました。

「ガランガランガランガランガラン．．．」

（な．．．な．．．なんなんだ？）

私が相変わらず訳の分からない行動に戸惑っていると、他の子供達（妖精）も駆けてきて、それぞれ勝手気ままに体を動かしながら口々に「ガランガラン」と言いはじめました。羽をバタつかせて体を揺すっているカイル．．．ピョンピョン跳ねているケイン．．．ぐにゃぐにゃと体を動かしているかなえ．．．頭の上を飛び跳ねているたまちゃん．．．そして、気が付くと、今度はじんべえが私の体を、そしてぼくは私の肩に乗って私の頭を揺すっています。で、おねえちゃんはというと、その周りを「ガランガラン」言いながら歩き回っていました。大きく口を開け、上を向いて．．．

（何かの儀式かいな？）

いつも以上に奇妙な行動に、そんな事を考えながらみんなの声を聞いていると、さっき捨てた空き缶を思い出しました。いらなくなって捨てた缶．．．頭の中にはガランガランと音を立てながらリサイクル入れに落ちて行く缶の光景が浮かんでいました。

「一緒にガランガラン！」

ぼ〜っとしている私におねえちゃんが声を掛けました。
それで、まぁ、逆らう理由もなさそうですし、私は一同と一緒に唱え始めました。

「ガランガランガラン．．．」

なんとなく唱えながら、頭には転がって落ちていく空き缶を思い浮かべていました。

「ガランガラン．．．」

そして、ふと気付くと、不思議と心が少し軽くなっているではありませんか！まるで、朝から抱えていた重りが落ちていった様な．．．まるで、捨てた空き缶の様に転がっていったような．．．

その時、ふと子供の頃に聞いたおまじないを思い出しました。

「ちちんぷいぷい、痛いの飛んでいけ〜。」

私が怪我した時に母が言った意味不明の言葉．．．

（な〜んだ、「ガランガラン」っていらない物を落とすおまじないか〜．．．）

そうしてやっと、みんなの不可解な行動の意味が分かりました。捨てた空き缶の様にいらない物を落とすおまじない．．．

そう言えば、どこかで聞いた事があるような気がします。おまじないとか呪文って、使う言葉とか文章自体よりも、それが言う本人の心に与える影響が大切なんだって。だから、同じおまじないでも、言う人が持つ言葉の印象によって、効果は全然違うって。だって、ほら、結局のところは、単語や文法じゃなくて、心が結果を生むんですから。

そしてこの「ガランガラン」が私に与えた印象が、丁度良く「ガラクタ落とし」につながったみたいでした。私の心のガラクタ落とし．．．

あっ、あと、もう一つ思い出しました。もし、おまじないや呪文を、言う人以外の人が聞いていたら、その人達が受ける印象も効果に影響するんだそうです。だから、おまじないとか呪文って、普通は、言う人以外には訳が分からない様な文章になってるんですって。（そうじゃないと、厄介な事になるとかなんとか．．．）