「最後には全て失った。」
どこからともなくそう聞こえてきたのは、遠い昔の事を考えていた時でした。それは、まぎれもなく私の心の声。数え切れない程、様々な人生を生き、その間に心に刻んでしまった、悲しい事実。それは、今の私の生活に大きな影響を及ぼしてきました。
嬉しい出会いの先にある別れ。幸せな生活の後に来る失望。何度も裏切られ、失敗によって失い、時代によって奪われた幸福は、いつしか私に「永遠の幸せ」など無いことを、そして失うことへの恐怖を教え込みました。そして訪れたこの人生。子供の頃から、大切な人達を失うことを恐れ、誰かに陥れられると警戒し、いつ襲ってくるか分からない不幸に身構えて生きてきた私は、自分自身の声を聞いて、はっとしました。
...私が自分で付けた足枷。
それに気付いた時、私は自分の魂に刻まれた無数の古傷に触れたような気がしました。数々の痛みと悲しみ...私は、いくつの「運命」を受け入れてきたのでしょう?
数々の痛み...数々の悲しみ
それらから未来の私を守るようにと刻んだその親切な警告は、いつしか足枷に変わり、私から不安のない日々を奪い、幸せを掴む事を妨げてしまっていたようです。
そうじゃないのに...
昔は分からなかった事に、今回は気付きました。あの別れも絶望も、決して「最後」ではなかった。いつかはまた生まれ変わり、また同じ魂と出会い、そして、新しくやり直す機会を与えてもらえる...
その時、私は少しだけ前よりも自由に羽ばたける様な気がしました。
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