海を見ながらあの日を描いた
二度と戻れない楽しかった時間
あの幸せを再現したいと
薄らぐ記憶と戦いながら
届かない世界を必死に描いた
笑い声が聞こえてくるように
あの日の言葉が蘇るように
五感を全て呼び起こして
遠い記憶を探りながら
いつまでも丁寧に描き続けた
出来た絵はとても暖かい色で
少しあの日に戻れた気がした
いつまでもそこに浸っていたくて
「過ぎ去った時だ」と言う私の声を
無視していつまでも見つめ続けた
絵の世界に浸り佇む私に
見知らぬ人が声を掛けてきた
「良い絵ですね」と微笑みながら
画廊の名刺を私に差し出した
「明日よかったら来て下さい」と
「明日」という言葉が私の心に
不思議な音色で響いていた
暗いトンネルの出口を示す
合図のように鳴り続けていた
私をどこかへ導くように
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