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あるよく晴れた秋の昼下がりのことです。
栗は上機嫌で空を見上げていました。
「今日は良い事があるような気がするな。」
栗はそうつぶやくと、ありったけの力を振り絞って転がり始めました。
目指すは向こうの栗拾いの家族。
「拾ってもらって、持って帰ってもらおう。」
栗は必死に転がり続けます。
「焼き栗、栗ご飯、栗饅頭...」
自分が変身するであろう料理を想像して、心を躍らせます。
「栗ようかん、栗ぜんざい...」
楽しみで仕方がありません。
「マロングラッセ、モンブラン...」
難しい横文字だって知っています。
ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ...
栗はどんどん家族に近づいていきます。
そして、もう少しで手に届くと思った時です...
ドン!
何かに横から殴られたような気がしました。
え?
栗は何が起こったのか分かりません。
混乱したまま、周りを見渡そうとしましたが、動けません。
「拾われたのかな?」
そう思った時、ふと、自分の体を挟んでいるいくつもの尖った物に気付きました。
「...なんだ、りすか...」
栗はがっかりです。
「おいしい料理に変身出来ずに、このまま食べられちゃう。」
栗は残念でなりません。
「つまらないな。残念だな。」
そう思いながら、リスの口の間で通り過ぎる景色を眺めています。
「どこまで連れて行くんだろう?リスのお家は遠いのかな?お家に帰って食べるのかな?」
そう思った時、景色が止まるのに気付きました。
「あれ? 家じゃなさそうだぞ。」
栗は、草の上で辺りを見回しました。近くに木は見当たりません。
「こんな所に住んでるのかな?」
聞こうかと思いましたが、リスは忙しそうです。
「なにやってるんだろう?」
栗は不思議で仕方ありません。時折掛かってくる土に顔をしかめながら、栗はまた考えます。
「今のうちにまた転がって、さっきのところまで戻ろうかな。」
そう思っていると、リスがいきなり顔を上げ、栗をくわえて、穴に落としてしまいました。
「な〜んだ。穴を掘ってたのか。」
疑問が解けて安心した反面、今度はまたがっかりします。
「...つまんないの。」
どんどん土を掛けられ、暗くなっていく穴の中で、栗は悲しそうに呟きます。
「ここじゃあ、誰も見つけてくれないな。折角「おいしい」って喜んでもらおうと思ったのに...このままじゃ、何の為に生まれてきたのか、分からないな...残念だな。」
その栗は、その後、大きな栗の木に成長し、美味しい栗の実をたくさん実らせました。
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