肩を落として俯いたまま
ソファーに座り溜息をついている
私の横にそいつはある日
座ってハイヒールの踵を見せた
「これをおまえは覚えているだろう」
私の顔を覗き込み微笑むと
差し出してきたそのハイヒールには
5センチは余裕にあるほど高く
硬く細い踵がしっかり付いていた
それはとても遠い昔の事
奈落の底を這いずる様な
辛く苦しく暗い毎日を
ギリギリの線でなんとか耐えていた
片手で崖にぶら下がる様に
ハイヒールはそんな私の片手の
指を時には無意識の内に
そしてある時は意図を持って
何度も踵で踏みつけてきた
信じていた人がハイヒールを履いて
「今ある痛みはこの踵より
あの日々よりも辛くはないだろう」
そいつはそう言って私に微笑むと
頭を撫でて立ち去っていった
ハイヒールを私の膝に残し
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