詩とお話でひとやすみ
時折聞こえてくる声。これでも「励まし」って言うんでしょうか?
どっちかって言うと、前向きなんです。
辛い時もありますよね。
腹が立つ時もあります。
「人達」のお話。
ある区切り目にきたようです。
応援したりもするんです。
ある日の出来事。
応援したりもするんです。
応援したりもするんです。
こんな気持ち。
ある日の出来事。
ランプ
なぜあの日僕はあの骨董品屋へ入ってしまったのか、今になってはもう思い出せない。
ただ、なんとなく...その程度だったような気がする。
とにかく、その日、僕は古びた看板の掛かった骨董品屋へ入ってみた。

薄暗い店内。そこには無数の商品...と言っても骨董品というよりはガラクタに近い薄汚れた物ばかりで、ただどれも明らかに古いという事だけが、「骨董品屋」という看板を掛ける事を辛うじて許している様だった。店を見回した僕は、店の隅にある小さな古びたカウンターとその上にある時代遅れのレジを目にした。

「あれは、商品だろうか?」

そんなことを考えていると、レジの後ろで何かが動くのが見えた。レジと同じくらい時代について来ていない中年の男性。頭を下げる僕を一目見ると、表情一つ変えずにまたどこともつかない空間に目を戻していった。

(なかなかミステリアスじゃあないか。)

僕は心で呟いた。別にミステリーを求めてここに入ったわけではなかったが、こう怪しいと、なぜか期待してしまう。

僕は、ゆっくりと店内を歩き始めた。どれもただ小汚いだけで、古いとアンティックは同じ意味ではないということを分かり易く教えてくれているようだった。掘り出し物はおろか、訳あり品さえなさそうだ...そんなことを考えながら店内を半分ほどまわった所で、ふと僕は店の片隅の棚に置いてある物に目を止めた。薄汚れたそれは、アラブの御伽噺で出てくる魔法のランプの様な見かけをしていた。そして、そのランプの前には小さく手書きの札。

「決してこすらないで下さい」

(なんと意味ありげな...)

そう思いながらも、最初はどうせ店のおじさんの冗談だろうと思った。まぁ、おもしろいな...そう思いながら、レジの方を見たが、僕の目に入ったのは、ジョークなど分かりそうに無い、無表情のおじさん。
まぁ、いいや...そう思い、そのまま別の商品に足を向けた。しかし、暫くすると、やはりあのランプが気になる。大体、擦るなと言われれば擦りたくなるのが人というものだろう。

僕はそのランプの前に戻り、手を伸ばした。手に取るくらいは良いだろう。書いてあるのは「こするな」じゃないか。そう思いながらランプを手にして、レジの方を見た。怒られやしないか...多少心配しながら見ると、おじさんは相変わらず宙を見つめていた。
少し気が楽になり、じっくりとランプを見ることにした。
意外と重みのあるランプ。鈍く光る金色のそれは、よく見るとあちこちに傷があり、まるでそいつが見てきた様々な境遇を僕に語っている様だった。

(何人の人の手を渡ってここに辿り着いたのだろう?)

そんな事を考えながら、今度はゆっくりとそいつを振ってみたが、別に何も入っている様子は無い。

(魔人が入ってても、音はしないよな...)

ふとそんな事を考えてから、慌てて頭を振った。

(バカバカしい。子供じゃあるまいに、まさか御伽話を信じてるんじゃないだろうな?)

からかうと言うよりはバカにする様な口調で自分に話し掛けながら、そいつを棚に戻しかけた時、ふとそのランプに刻まれたものが目に入った。その文字とも模様ともつかないものは、かなり昔に彫られたらしく、消えかかっている様だった。

(なんとも意味ありげな...)

それをもっとよく見たくなり、覆っている埃を擦り取ろうとして、ふと手を止めた。

(魔人は良い奴だったっけ?)

そんな事を考えながら、魔法のランプの話を思い出そうとしている自分に気付き、呆れてしまった。

(何をやってるんだ?)

そんな言葉が頭を過ぎり、あまりにも子供じみた自分が恥ずかしくなった僕は、慌てて頭を振ると、そのランプを棚に戻して店を出た。

そうして店を出てみると、ランプを擦らなかった事を後悔してしまう。どうせ御伽噺を信じていないんなら、擦っても良いだろう...いやいや、「こするな」って書いてあったんだから、擦っちゃいけないだろう...そんな会話を何度となく頭の中で繰り返した僕は、三日後の夕方、意を決してまたあの骨董品屋に向かった。

店に入ると、今度は真っ直ぐランプの棚に足を向けた。途中、レジを見ると、同じ男性が相変わらず宙を見つめていた。

(擦ったら、怒られるだろうか?)

ふと心配になったが、気になって仕方がない。だからといって、興味本位だけで買うには、ちょっと値がはる商品だった。擦ればどうなるのか、おじさんに訊こうとも思ったが、いい年をして御伽噺を気にしているとは思われたくない。

そんな事を考えながら、僕は棚からランプを取ると、恐る恐る擦ってから身構えた。
何かがランプから出てこないか...周りの物音に耳を立て、暫くの間そこに立っていた。

しーんとした店内。一向に変化の無いランプ。

(何を期待していたんだ?)

自分自身に苦笑いをしながらランプを棚に戻そうとした時、ふと何かが変わっている事に気が付いた。
古びたランプ...その一部...擦った部分の色が変わっている...
はっとして見た僕の指には、ランプの金色が付いていた。

「...色が剥げるからかよ...」

あまりのバカバカしさに呆然とその場に立ち尽くしている僕の後ろから、店のおじさんの声が聞こえた。

「だから、擦らないで下さいって書いてあるじゃありませんか。」

相変わらず無表情でそう言った。

結局、そのランプを買う羽目になった僕は、がっくりと肩を落として店を出た。

「どこかで捨てよう。」

溜息混じりに呟き、ランプを見ながら歩く僕の直ぐ後ろを、つける様に黒い影がついて来ていた事など、その時の僕には知る由も無かった。

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